『田園の詩』NO.24 「借りたら返す」 (1995.1.31)


 知人の結婚披露宴で、最後に挨拶に立たれた新郎のお父さんが、こんな挨拶を
されました。

 「ある本を読んでいたら、その著者は、『借りたら返す』という生き方を、父親か
 ら躾けられて育ったそうです。今日、結婚した二人は、大勢の皆さんのご厚情で
 ここまで育つことができた。 しかし、これは戴いたものではない。借りたものだ。
 だから、これからは夫婦として、二人力をあわせて、皆さんにお返しをするような
 心構えで生きて行ってほしい。」

 この『お返し』の話は、私の心に深く残りました。考えてみれば、山里で暮らす私
たちは、人々から戴くよりももっと多くの恵みを、一年中、自然から貰っているのです。

 お正月を過ぎて、先ず、フキノトウに始まり、セリ、ミツバ、ウド、タケノコ、ワラ
ビ、ゼンマイと続きます。夏には、畑で沢山の野菜ができます。秋になると、柿や
キノコが取れ、年末には、待望の山芋を掘ることができます。

 食べ物に限らず、前の川では蛍やカワセミが、私たちの目を楽しませてくれます。
月も星も澄んだ空気の中で輝きを増します。

 これら、数えきれないほどの自然からの戴きものが、借りたものであるならば、
私のこれまでの人生は、借りっぱなしだったような気がします。借りたものは返さ
なくてはなりません。自然に対して『借りたものを返す』には、どのようなことをし
たらいいのでしょうか。

 私の友達で《八坂川に鮎を蘇らす会》を結成している人がいます。彼もUターン組
ですが、田舎に帰ってみたら、子どもの頃いた鮎がいなくなっていた。何故かと調べ
たら、水が汚れていたのと、堰ができていたのが原因だったそうです。それで仲間に
呼びかけ、水質を良くし、魚道を造る活動をしています。


     
    最近は、要望しなくても魚道が造られるようになりました。右奥が魚道です。中央は
     農業用の堰(せき)です。ここを閉じて、左奥にある溝に水を流し、田圃に導きます。
     この時期は、水田用に水を利用しているので、水が濁り、魚道にも水が流れていません。
                                  (08.5.27写)

 一度失った自然を取り戻すには多大の努力が必要となります。今ある豊かな自然
を大切に守り残すこと、これが私たちにできる『お返し』のひとつだと思います。
                             (住職・筆工)

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